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無痛分娩について

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無痛分娩について

群馬大学医学部附属病院では、医学的な理由により無痛分娩が必要な妊婦さんや、お産の痛みをとって欲しいというご希望のある妊婦さんに対して2023年から無痛分娩を開始しました。

【無痛分娩ってどんなもの?】

実は「無痛分娩」は医学的な専門用語ではありません。英語では「Labor epidural analgesia」という言葉が使われており、これを訳すと「分娩時の硬膜外鎮痛」つまり硬膜外麻酔を使用して陣痛の痛みを和らげることとなり、どこにも「無痛」という言葉はありません。どのくらい痛みを和らげるかは、それぞれの病院によっても異なりますが、当院では「お腹の張っている感覚はわかる、少し痛みもあるけど、このくらいなら大丈夫、足の力もしっかり入って、いきむときにしっかり踏ん張れる」といった状態を目指しています。これは、全く痛みを感じないくらいまで強い麻酔をしてしまうと、陣痛が弱くなったり、いきむタイミングが分かりにくくなったりして、「痛みは取れたけどお産がうまく進まない」といったことが起こりやすくなってしまうからです。

ここで無痛分娩を理解するために「お産」を「登山」に例えてみましょう。
何の準備もしないで、いきなり登山はできません。登山の前(妊娠中)には準備が必要です。お産までの食事や体作り(例えばバランスの良い食事や1日30分くらいの有酸素運動)や自分がどんなお産をしたいかをイメージするバースプランの作成はとても大切なことです。
麻酔なしのお産とは、靴を履かないで裸足で登山をするようなイメージです。一歩一歩痛みを感じながら地面を踏みしめ、呼吸を整えながら山を登っていきます。一方、麻酔ありのお産とは、靴を履いて登山をするようなイメージです。麻酔をしたからといって、ロープウェイで頂上まで自動で連れて行ってくれるわけではありません。痛みは楽になりますが、山登りをすること自体は変わらないので決して楽を出来るわけではありません。感じ方は人それぞれですが、「私は無痛分娩だから楽に産める」という考え方は正しくありません。妊娠中の準備に関しても、麻酔があってもなくても必要になります。
スムーズに山登りをするためには、山登りに合ったちょうどいい靴を履く必要があります。この靴を作るのが麻酔科医の役割です。完全に痛みをとるために厚底の靴を履いてしまえば、結局登るのが大変になるし、時間もかかってしまいます。
山登りの最中には、険しい道も出てくるだろうし、急に天候が悪くなることもあります。そんな時に、あなたの傍に寄り添い、一緒に歩んでくれるのが助産師です。助産師は、あなたを導く伴走者になってくれます。しかし、途中でどうしても超えられない障害がでてくることもあります。そんな時は、産科医がヘリコプターで頂上まで連れて行ってくれます。その際は、帝王切開や器械分娩(吸引・鉗子分娩)を行います。
安全に、そして無事にお産という山登りを成功させるために、産科医・麻酔科医・助産師がチームであなたを支えます。安心して山を登っていただき、一緒に頂上を目指したいと私たちは考えています。

現在、インターネットやSNSでは、無痛分娩に関する情報があふれています。しかし、病院によっても無痛分娩のスタイルは異なりますし、他人の経験がすべて自分に当てはまるとは限りません。このホームページでの情報や担当する医師からの説明を十分に聞き、よく理解したうえで自分がどのようなお産をしたいのか一緒に考えていきましょう。

【当院での無痛分娩の制限について】

無痛分娩を希望される場合は、計画分娩を行います。計画日より前に陣痛が発来した場合には基本的には無痛分娩を行うことはできません。

無痛分娩の対象となる方は、医学的適応のある方(脳血管疾患や心疾患や精神疾患の一部など)や無痛分娩の希望がある方になります。医学的適応のある方は、初産/経産を問わず対応を検討します。医学的適応のない無痛分娩を希望される方は、基本的に経産婦に限定しています。母体合併症のある方は、その程度により、無痛分娩を実施できるかどうか判断します。

無痛分娩枠は、当面の間、週に1件までです。医学的適応のある方が優先となります。無痛分娩枠には制限があるため、希望するすべての方に対応できない場合があることをご理解ください。また、当院は群馬県の周産期医療を支える中核施設であり、多数のハイリスク妊産婦さんの受け入れを24時間体制で行っています。当日の病棟の状況によっては、安全を優先させるために無痛分娩ができなかったり、延期となる場合もありますので、ご了承ください。

無痛分娩に興味・希望がある、自分が無痛分娩の対象になるか知りたいという方は、外来担当医や助産師・看護師にお気軽にお聞きください。なお、無痛分娩の対象や無痛分娩枠については、当院の体制の変化に伴い、今後変化する可能性があります。

【硬膜外麻酔による無痛分娩のメリット】

1、薬を用いない産痛緩和法(ラマーズ法、マッサージなど)よりも効果が確実

2、薬を用いる産痛緩和法では、赤ちゃんへの影響が最も少ない

3、分娩後の回復が早く、体力が温存できる可能性がある

4、無痛分娩中の帝王切開で全身麻酔を避けることができる可能性がある。

【当院における無痛分娩の方法】

当院では基本的には硬膜外麻酔を用いた無痛分娩を行っています。分娩の進行状況により、脊髄くも膜下麻酔を併用することもあります。硬膜外麻酔はプラスチック製の細くて柔らかいチューブ(カテーテル)を背中から硬膜外腔に挿入し、麻酔薬を少しずつ注入して痛みを和らげる方法です。脊髄くも膜下麻酔は、脊髄くも膜下腔に麻酔薬を注入する方法です。

無痛分娩-p01_硬膜外腔と脊髄くも膜下腔

【無痛分娩の実際の流れ】

当院の無痛分娩は計画分娩となるため、基本的に前日入院となります。入院後は内診を行い、子宮口の状態によっては子宮口を広げる処置を行います。この際に麻酔は行いません。当日は、朝から陣痛室に移動してCTGモニター(赤ちゃんの心音とお腹の張りを観察するモニター)を装着します。その後、子宮収縮薬の投与を開始し、痛みがある程度強くなってきたところで分娩室に移動し、麻酔を開始します。迅速な対応を心がけていますが、状況によっては開始が遅れることがあります。

分娩台の上で横になるか、座っていただきます。背中を丸くし、背中を消毒し、腰のあたりに局所麻酔をします。局所麻酔した場所から、カテーテルを挿入し、鎮痛薬を注入して痛みをとります。開始してから、30~40分くらいで痛み止めの効果が出てきます。

無痛分娩-p02_無痛分娩の実際の流れ

※麻酔を始めたからといってすぐに痛みが取れるわけではありません。また、麻酔の効きが不十分な場合は、カテーテルの位置の調整や入れ替えが必要になることがあります。痛みを0にするのではなく、耐えられる痛みにコントロールすることを目標とします。

<無痛分娩中の過ごし方>
  1. 陣痛誘発中および麻酔開始後は定期的に血圧を測定します。
  2. 無痛分娩中は、胎児心拍を確認するモニターや妊婦さんの状態を確認するモニターを付けたままの状態で、ベッド上で横向きで過ごします。
  3. 無痛分娩を希望される場合、前日24時以降は固形物の摂取はできませんが、水分は摂取できます。摂取できる水分は表を参考にしてください。
    無痛分娩-p03_無痛分娩中の過ごし方
  4. 麻酔中は、ずっと同じ姿勢にならないように定期的に体の向きを変えていきます。
【無痛分娩の安全性と合併症、副作用】

どんな医療行為でも100%安全ということはありません。一般的に硬膜外麻酔の安全性は高いと考えられていますが、麻酔による合併症が起こる可能性は0ではありません。当院では、産科、麻酔科、助産師による無痛分娩チームが連携することにより、合併症を未然に防ぎ、たとえ合併症が起こったとしても迅速に適切な対応を行い、安全な無痛分娩提供体制を整えています。更に当院は、救急科、集中治療科をはじめとした母体の急変時に対応できる診療科も揃っており、赤ちゃんの具合が悪い時には新生児科医が対応してくれる総合病院です。安全な無痛分娩提供体制が整っており、急変時にも院内で対応が完結できることが当院の強みです。

無痛分娩の合併症、副作用には、「麻酔によるもの」「麻酔による分娩経過への影響」の2つがあります。それぞれ解説していきます。

麻酔の合併症、副作用

<よく起こる副作用>

1、低血圧(頻度:15%程度)
2、足の感覚が鈍くなる(頻度:100%)
3、尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい(頻度:100%)
4、かゆみ(頻度:30%程度)
5、発熱(頻度:10%程度)

<まれに起こる不具合>

6、硬膜穿刺後頭痛(頻度:1%程度)

無痛分娩後に起き上がると痛みが強くなり、横になると軽快するという症状であることが多く、たいていは数日で改善します。安静や鎮痛薬で対応しますが、改善しない場合は「硬膜外血液パッチ」という処置を行うことがあります。

7、局所麻酔薬中毒(頻度:0.02%程度)

硬膜外腔にはたくさんの血管があるため、カテーテルが血管の中に入ってしまうことが、まれにあります。硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬が血管の中に注入された場合や、血管内に注入されなくても投与される局所麻酔薬の量が多すぎる場合は、耳鳴りや舌がしびれるなどの症状が表れ、更に血液中の麻酔薬の濃度が高くなると、けいれんや危険な不整脈が出ることがあります。麻酔を担当する医師は、この合併症がおきないよう十分に注意していますが、発生した場合には、治療薬の投与や人工呼吸といった適切な処置を行います。

8、高位脊髄くも膜下麻酔・全脊髄くも膜下麻酔(頻度:0.1%程度)

硬膜外腔へ管を入れるときや分娩の経過中に、カテーテルが脊髄くも膜下腔に入ってしまうことが、まれにあります。硬膜外腔に入れるはずの麻酔薬を脊髄くも膜下腔に投与すると、麻酔の効果が強く急速に現れたり、血圧が急激に下がったりします。重症では呼吸ができなくなったり、意識を失ったりすることもあります。麻酔を担当する医師は、この合併症がおきないよう十分に注意していますが、発生した場合には、人工呼吸をはじめとする適切な処置を行います。

9、硬膜外血腫・硬膜外膿瘍(頻度:数万人に1人)

非常にまれですが、硬膜外腔に、血液のかたまりや膿がたまって神経を圧迫することがあります。永久的な神経の障害が残ることがあるため、できる限り早期に手術を行い、血液のかたまりや膿を取り除かなければならない場合があります。

分娩経過への影響

陣痛が弱くなり、分娩が長引くことがあります。分娩が長引いても麻酔が効いているのでリラックスして過ごすことができます。子宮収縮薬を適宜調節します。また、産道の出口付近で分娩が停滞することがあり、鉗子・吸引分娩(赤ちゃんの頭に金属の器具やカップを装着し、引っ張って分娩する方法)の可能性が高まります。どのくらい多くなるかは明らかではありません。また、帝王切開の可能性が高くなることはありません。

【無痛分娩外来の受診】

無痛分娩を希望される場合は、妊娠34週前後で無痛分娩外来の受診が必ず必要となります。無痛分娩外来では、無痛分娩を安全に行うことができるかどうかの診察や、麻酔や陣痛誘発についての説明を産科医・麻酔科医から行います。血液が固まりにくい状態の方、背中や腰の病気がある方、特定の心臓や神経の病気がある方などは無痛分娩を受けられない場合があります。無痛分娩の手順やメリット・デメリットを事前に十分に理解していただき、安心して分娩日を迎えられるようサポートさせていただきます。

【無痛分娩に関わる費用について】

当院の無痛分娩の費用は、通常の分娩費用に加え一律12万円(自費診療)です。
無痛分娩の麻酔効果が不十分であった場合も、無痛分娩費用は一律にかかります。無痛分娩の麻酔をしている時間が長くなっても延長料金はありません。また、無痛分娩外来の費用は3000円となります。血液が固まりにくい状態かどうかを確認するために妊娠後期の採血で検査項目を追加します(2900円)。これらはいずれも自費診療となります。

【情報公開について】

無痛分娩の安全性に対する懸念が社会的に注目を集める中、2017年に「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」が行われ、2018年に「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」が発表されました。この提言を受けて協議を重ねた結果、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)が発足されました。

JALAでは、無痛分娩を希望する妊産婦さんのためにもっとも重要なのは、無痛分娩取扱施設が、自施設の無痛分娩に関する適切な情報を積極的に公開すること、そして公開されている情報に妊産婦さんがアクセスしやすい環境を整備することと考えています。当院では、JALAの趣旨に賛同し、無痛分娩に関する分かりやすい情報公開に努めておりますので参考にしてください。
なお、JALAについては以下のサイトをご覧ください。
https://www.jalasite.org/

JALAで当院が公開している情報はこちらになります。
当院で使用している説明同意書はこちらになります。

より詳しい内容を知りたい方はご覧ください。

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