肝胆膵外科
診療案内
診療内容・診療方針
肝胆膵外科では、肝胆膵疾患に罹患した患者さんおよび家族の人生をより良いものするために、最良の医療を提供することをめざします。当科は、一人ひとりの患者さんを丁寧に診療し、患者さんにとって最善と思われる治療方針を提示し、その実践に全力を尽くします。
安全性を重視するとともに、患者さんお一人お一人との出会いを大切にし、最善の個別化医療(個人個人にあった医療)に基づいた長期予後の向上を目指しています。私たちは個別化医療について3つのことを考えています。
(1)全身状態に応じた治療法選択:近年、高齢の肝胆膵疾患の患者さんが増えています。高齢になれば肝胆膵疾患以外の合併症(心臓病、糖尿病など)をお持ちの方々がおられます。これらの患者さんに対しても関連各科との連携を密にし、安全に手術や治療が行えるように最善の努力をいたします。
(2)病気の状態に応じた治療選択:良性の病気(胆石症など)や早期のがんには腹腔鏡を中心とした低侵襲治療の適応を考えます。進行した癌をお持ちの患者さんに関しては、拡大手術で根治を目指します。
(3)治療の組み合わせによる治療法(集学的治療)の適応:手術のみならず、抗がん剤や重粒子線などの放射線療法を駆使し、あるいはそれぞれの治療法を組み合わせることで、最善の治療法を模索します。そのために当院の消化器内科(肝臓内科、胆膵内科)や放射線治療科と密接に連携し、術前検討会を経て術前診断を行い、治療方針を決定しています。
当院は、日本肝胆膵外科学会の修練施設A(学会が規定する高難度肝胆膵外科手術が年間50件以上で認定)に認定されています。ここ数年の肝切除件数は100~120件程度、膵切除件数は70~80件程度で、日本肝胆膵外科学会の認定する高難度肝胆膵外科手術件数は130件程度となっており、この症例数は関東でも有数の症例数となっています。(下図)。当科には日本肝胆膵外科学会の高度技能指導医:1名と高度技能専門医:4名、日本内視鏡外科学会の技術認定医:4名が在籍しています。
主な対象疾患
肝臓疾患:
肝細胞がん、肝内胆管がん(胆管細胞がん)、転移性肝がん、肝細胞腺腫、(巨大)肝血管腫など
胆道(胆管、胆のう)疾患:
胆管がん(肝門部胆管がん、中・下部胆管がん[遠位胆管がん])、胆のうがん、十二指腸乳頭部がん、胆石症、胆のう炎、先天性胆道拡張症、膵胆管合流異常など
膵臓疾患:
膵臓がん(膵管がん、通常型膵がん)、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵神経内分泌腫瘍(膵NET)、膵嚢胞性腫瘍(MCN、SPNなど)、慢性膵炎など
得意とする分野
【肝機能低下症例に対する安全な手術適応評価】
慢性肝炎や肝硬変、門脈圧亢進症などで肝機能が低下した症例でも、 ICG試験、血液中の線維化マーカー(M2BPGi)、肝臓特異的な造影剤を使用したEOB-MRI、超音波による肝臓硬化度測定(VTQ)、アシアロシンチグラフィーなど多角的な検査を駆使して手術適応を的確に見極め、術後肝不全に陥ることのないよう細心の注意を払っています。
【膵癌の治療成績向上への取り組み】
膵癌の治療成績向上のため手術前に化学療法や放射線療法を行い、その後手術を行うことで長期生存(予後)が得られることが期待されます。切除可能な膵癌に対して積極的に術前化学療法を行っています。また、切除可能境界など進行した膵癌に対して化学療法や放射線併用療法で、病態が改善した後に手術が可能となる場合があります。加えて、当院の特色でもある重粒子線治療は膵癌治療においても高い効果が期待されており、膵癌に対する重粒子線を用いた術前治療プロトコールがあります。
膵癌に対しては、手術・化学療法・放射線療法(重粒子線含む)を組み合わせた集学的治療を行うことが重要であり、難治がんである膵癌の治療成績向上を目指しています。
【腹腔鏡手術について】
肝切除・膵切除ともに、適応があれば腹腔鏡手術によって低侵襲な(傷が小さく体の負担が少ない)手術を心掛けています。肝切除では従来、腹腔鏡手術が難しかった肝区域(腫瘍の位置)や、高度な技術を要する系統的な肝切除、過去に開腹手術を行った症例に対して、しっかりと適応(腹腔鏡で施行できるかどうか)を見極めて完全腹腔鏡下の肝切除を施行しています。膵切除では、低悪性腫瘍と膵癌(適応がある症例のみ)に対する腹腔鏡下膵体尾部切除を施行しています。腹腔鏡手術には内視鏡外科学会の技術認定を持つ専門医が責任をもって対応いたします。
【ロボット支援手術】
当科では、2022年よりロボット支援下腹腔鏡手術を膵体尾部切除(2022年8月~)、肝部分切除・外側区域切除(2023年2月~)、系統的肝切除:亜区域・区域・葉切除(2023年12月~)で導入いたしました。ロボット支援手術は、高画質3次元カメラや、自在に動く鉗子と手振れ補正機能によりきわめて繊細な動きが可能であり、従来の腹腔鏡手術と同等な低侵襲性に加え、より精度の高い手術ができることが期待されています。当科では安全性を第一に考えながら、患者さんの適応を見極めて手術を行う方針としています。
【高侵襲な手術への適応と高難度手術の成績】
肝門部胆管癌に対する肝葉切除+胆道切除再建や、門脈や動脈などの主要血管の切除再建をともなう膵切除、膵全摘といった高度な技術と細心の術後管理が求められる手術症例でも、病変の進行度や患者さんの状態をしっかりと見極めて適応を決め、安定した技術の提供をこころがけ、根治性と安全性の両立に努めています。
専門施設においても術後短期成績の指標とされる高難度手術後90日以内の死亡率が全国平均で0.9%であるのに対し、当科では高難度手術後90日以内死亡例はありません(2015年11月当科新設~2023年8月現在)。良好な成績を得ており、今後も細心の注意を払って診療を行って参ります。
【重粒子線治療との連携】
当院の特殊設備である重粒子線治療は、手術や抗がん剤と組み合わせた集学的治療の一環として、また手術適応外となった進行がんに対する治療として行っています。当初切除ができない(局所進行)膵癌に対して重粒子線を照射し手術が可能となった症例や、手術後に再発した部位に重粒子線治療を行うことを経験しています。
主な疾患の診療実績
代表的疾患の年間手術数(2019年~2022年)
疾患分野 | 術式 | 症例数(うち腹腔鏡手術) | |||
---|---|---|---|---|---|
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | ||
臓器:肝 | |||||
原発性肝腫瘍 | 肝切除術 | 58(13) | 56(20) | 44(19) | 48(35) |
その他術式 | 4(0) | 0 | 0 | 0 | |
転移性肝腫瘍 | 肝切除術 | 46(19) | 38(18) | 44(25) | 44(24) |
他の肝疾患 | 肝切除術 | 4(2) | 7(1) | 1(1) | 4(3) |
その他術式 | 2(2) | 3(3) | 13(3) | 2(0) | |
臓器:胆・膵 | |||||
胆膵腫瘍 | 肝切除+胆道再建術 | 9(0) | 15(0) | 16(0) | 8(0) |
拡大胆嚢摘出術 | 7(0) | 4(0) | 6(0) | 7(1) | |
膵頭十二指腸切除術 | 33(0) | 32(0) | 49(0) | 52(0) | |
膵体尾部切除術 | 14(2) | 20(0) | 22(10) | 24(12) | |
膵全摘術 | 4(0) | 1(0) | 5(0) | 1(0) | |
その他術式 | 17(3) | 11(0) | 24(1) | 19(9) | |
胆嚢・胆管結石 | 胆嚢摘出術 | 44(40) | 29(28) | 46(43) | 44(41) |
胆嚢摘出+総胆管切開術 | 2(0) | 1(0) | 3(0) | 0 | |
臓器:脾 | |||||
脾疾患・門脈圧亢進症 | 脾臓摘出術 | 7(7) | 4(2) | 3(2) | 4(2) |
その他術式 | 1(0) | 0 | 0 | 0 | |
臓器:副腎 | |||||
副腎腫瘍 | 副腎摘出術 | 9(8) | 20(19) | 12(12) | 10(10) |
副腎外傍神経節腫 | 摘出術 | 1(1) | 0 | 0 | 0 |
合計 | |||||
– | – | 262 (97) | 241(91) | 288 (116) | 267 (137) |
特殊医療(先進医療を含む)
肝胆膵外科では、大学病院として先進的で新しい治療を行い、また既存治療よりもさらに有効な治療法を開発すべく、以下の先進医療や臨床試験を行っています。これらは病院内もしくは責任施設の臨床研究審査委員会で厳正に審査され、その認可のもとで行われています。詳しくは当科医師にご相談ください。
先進医療:
- 腹膜転移を有する膵がんに対するS-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内投与併用療法の無作為化比較第Ⅲ相多施設共同臨床試験
特定臨床研究:
- 切除可能境界または切除不能局所進行膵癌に対する化学療法併用重粒子線治療後の外科的切除の安全性と効果検証のための第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験
- 腹腔洗浄細胞診陽性膵癌に対する全身化学療法の有効性を検証するための多施設共同第II相試験
自施設臨床研究:
- EOB-MRIを用いた肝予備能の評価と肝切除後肝不全発生に関する研究
- 肝切除術前における予定残肝容積増大を目的とした肝静脈塞栓術に関する第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験
- C型肝炎の新規診断法や新規治療法を開発するためのゲノムワイド関連解析の手法を用いた宿主因子の解析に関する研究
- 肝胆膵周術期におけるサルコペニアに対する運動・栄養療法の効果に関する研究
主な検査や医療設備
【特徴的な検査や医療設備】
- 肝予備能を従来よりも的確に見極めるためにICG試験、血液中の線維化マーカー(M2BPGi)、肝臓特異的な造影剤を使用したEOB-MRI、超音波による肝臓硬化度測定(VTQ)、アシアロシンチグラフィーなど多角的な検査を行っています。
- ICG蛍光カメラシステム(腹腔鏡手術用、開腹手術用):肝臓の区域や肝腫瘍を明瞭に描出することができ、手術の確実性を上げるナビゲーション技術として使用しています。
- マルチスライスCTによる3D構築ソフトウェア:手術の安全性や確実性を向上するために、最新のソフトウェアを用いて、肝切除のシミュレーションや手術する肝臓・膵臓の血管や位置関係を詳細に検討します。
- 造影モードとRealtime virtual sonography(RVS)を装備した超音波装置(エコー):手術中に見つかりにくい微小な腫瘍も、ナビゲーション技術によって確実に見つけるよう心掛けています。
専門外来・特殊外来
初診・連携枠:
初診の方や、他院からの紹介状をお持ちの方が受診される外来です。
肝胆膵外来・再診枠:
主に手術後の患者さんの様子をみたり、経過観察や投薬治療を行っている外来です。
化学療法外来:
手術前や手術後、進行がんの方に対する注射薬の化学療法(抗がん剤治療)を行っている外来です。
医師紹介
氏名 | 職名 | 専門分野・資格 |
---|---|---|
調 憲 SHIRABE Ken |
教 授 科 長 |
【専門分野】 【資格】 |
新木 健一郎 ARAKI Kenichiro |
准教授 副科長 |
【専門分野】 【資格】 |
久保 憲生 KUBO Norio |
助 教 |
【専門分野】 【資格】 |
五十嵐 隆通 IGARASHI Takamichi |
助 教 |
【専門分野】 【資格】 |
塚越 真梨子 TSUKAGOSHI Mariko |
助教 (病院講師) |
【専門分野】 【資格】 |
河合 俊輔 KAWAI Shunsuke |
助教(病院) |
【専門分野】 【資格】 |
萩原 慶 HAGIWARA Kei |
助教(病院) |
【専門分野】 【資格】 |
星野 弘毅 HOSHINO Kouki |
助教(病院) |
【専門分野】 【資格】 |
関 貴臣 SEKI Takaomi |
医員 (大学院生) |
【専門分野】 【資格】 |
奥山 隆之 OKUYAMA Takayuki |
医員 (大学院生) |
【専門分野】 |
正田 貴大 SHODA Takahiro |
医員 (大学院生) |
【専門分野】 |
外来診療予定表
初診受付: 午前8時30分~10時30分まで(紹介状をお持ちください)
再診受付: 午前8時00分~13時00分まで(予約制)
ご不明な点は、肝胆膵外科外来(TEL 027-220-8229 外来診療棟3階)までお問い合わせください。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
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初診・連携枠 当番制 |
初診・連携枠 当番制 |
初診・連携枠 当番制 |
急患のみ 当番制 |
初診・連携枠 当番制 |
再診 調 憲 五十嵐隆通 塚越真梨子 星野弘毅 |
再診 調 憲 新木健一郎 久保憲生 五十嵐隆通 塚越真梨子 河合俊輔 萩原慶 星野弘毅 |
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化学療法外来 関貴臣 奥山隆之 |